STORY
「お母さん、豆乳買っていい? 明日からこれ、毎日飲む!」
スーパーで豆乳を手に、駆け寄ってきた娘は言った。
どうやら娘の好きなインフルエンサーが、SNSで紹介していたらしい。学校のお友達も下校中によく豆乳を飲んでいると、帰り道で聞かせてくれた。
中学時代は部活一筋だった娘も、高校に入り美容に興味を持ち始めた。スキンケアやダイエットの話題も多くなる。もっと野菜をたくさんとらないと。揚げ物はイヤ。最近は、食事へ注文をつけてくるようにもなった。
食生活を見直してほしいのは、娘じゃなくて夫の方。というのが、私の正直なところだけれど。
次の日から、早速娘の豆乳生活が始まった。毎朝、1杯の豆乳。最初は飲むだけで満足していたものの、1週間が経つころには「豆乳だけじゃお腹が減っちゃう!」と言い始めた。そりゃそうだ。朝ごはんくらい、しっかり食べなさいよ。
「じゃあ、フレンチトースト食べる?」
母からの提案に、娘は「何で?」と言いたげだ。まぁ、見てなさいって。
私は冷蔵庫から豆乳を取り出し、バットに注ぐ。粒マスタードでアクセント。
そういえば、ハムもあった。サンドしちゃおう。
豆乳と卵の海を、ハムを抱えたパンが吸い込んでいく。
「絶対おいしいやつじゃん! お母さん天才!」
その言葉が、すごく嬉しかったりするんだよね。
ちょっとだけ手をかけた朝ごはんを、娘とふたりで食べる週末。
「食べすぎ? でも豆乳だし、いいよね?」
いいよ、いいよ。高校生になっても、あなたまだまだわんぱくねって。でも、そうやっていつもおいしそうに食べてくれるあなたを見るのが、お母さんは大好きよ。
わんぱく娘の豆乳物語
fin.