STORY
土曜の朝はみんなで掃除をするのが、いとう家のルール。……のはずだが、今日は先ほどから妻と娘のはしゃいだような声が聞こえてくる。掃除をする手は完全に止まり、リビングのテレビで流れるキャンプ特集を観て、盛り上がっているようだ。
おいおい、と覗きに行くが、なるほど、と納得。たしかに紹介されるキャンプ飯はどれもおいしそうだ。
「スキレットを使ったご飯、やっぱりオシャレだなぁ。」
掃除機を持ったまま、娘がそうつぶやく。
彼女が小さかった頃はよく家族でキャンプに行った。その頃のキャンプといえば、塊肉を焼くとか、大鍋でカレーをつくるとか。一度だけ、スキレットを使ったこともあったな。
娘が高校生になってからは、キャンプなんて一度も行ってない。少しさみしい気持ちもあり、思わず提案する。
「じゃあ、お昼はお父さんがキャンプ飯をつくろうか」
当時感じていた、ちょっといいところを見せたい気持ちが久しぶりに顔を出す。ふたりが喜ぶ顔を見たいのだ。キャンプっぽくて、ちょっとオシャレで、家でもできそうな料理。レシピを検索し、スキレットを使った豆乳グラタンを見つけた。
じゃがいも、にんにく、玉ねぎ、ベーコンと食材はシンプルに。ホワイトソースは豆乳で作るのも、我が家らしいじゃないか。オーブンで焼くのもいいが、今日はキャンプ感が出るよう蓋をして蒸し焼き。仕上げは、チーズをバーナーで炙ろう。
食卓に運べば、昔と同じように、妻と娘の歓声があがる。お父さんすごいね、なんて言われるのは、今でも嬉しい。熱々のグラタンを頬張りながら、雰囲気次第でまた違うおいしさをつくることもできるのだなと気づく。
家族の在り方はこれからも変わるし、その時々おいしいと感じるものも、きっと変わっていくだろう。
それでもたまにはこうやって集まって、好きなものや楽しい時間を共有することは、きっとずっと大事なことなのだろうなぁ。そう思って、しみじみと、娘がおかわりをするのを、私は嬉しく見つめていた。
キャンプ飯は、パパの味
スキレットの豆乳グラタン
fin.