STORY
結婚して4年。それぞれの好きなものは、何でもふたりで楽しんできた。お酒も絵画鑑賞も、キャンプも。ここ1年くらいは家で過ごすことが多くなり、一緒に料理をするのが土曜日の定番だ。クラフトビールや気になるワインをお取り寄せして。夕方から、キッチンへ並ぶ。
「今日はパスタが食べたい!」
先に提案したのは、夫だった。パスタか。それなら。
「鮭ときのこで、カルボナーラにしようか」
ちょうど恋しくなっていたメニューを挙げてみる。鮭ときのこのカルボナーラは、会社近くのパスタ屋さんで、私がよく食べていたもの。最近は会社へ滅多に行かなくなり、あの豆乳仕立てのやさしい味が食べたかったのだ。
「えっ、豆乳?」
そう来るか。そうだよね。夫が豆乳を苦手なことは、なんとなく気づいていた。冷蔵庫に常備してあるのに、飲んでいるのを見たことがない。私の大好物だから、彼も好きになってくれたら嬉しいのだけれど。
「絶対おいしいって!」
強めの主張で押し切った。パスタを茹でながら、豆乳と卵を混ぜる私をチラチラと見ている夫。鮭、きのこ、ほうれん草。フライパンの中の彩りを、無言でアピールする私。
「クリームパスタには白ワインがいいかな?」
ボトルを開けて、食卓は準備完了。パスタなんて何度も食べているだろうに、夫は初めて知った料理みたいに眺めていた。
「絶対おいしい」って言っちゃったものの。大丈夫だろうか。好きじゃなかったら、どうしようか。乾杯後のグラスを持ったまま、私は彼の挙動を見つめる。
「うん、悪くないね!」
「おいしいねって言いなさいよ〜!」
返しつつ、そう言ってもらえてすごく安堵。好きなものは、やっぱりふたりで楽しみたいと思う。
「豆乳って料理にも使えるんだね」
そんな呟きとともに、完食。夫はなんだかんだ、豆乳のことが気になり始めた様子です。
好きのおすそ分け
fin.